外傷:股関節部

外傷:股関節部<この辺は1つの骨折に2つ目、3つ目が隠れているから、診察は広く行う>
・骨盤骨折、股関節脱臼、大腿骨近位部骨折(頸部骨折、転子部骨折)、大腿骨骨幹部骨折
どれも、まずはバイタルの確認。AMPLE(アレルギー、内服薬、既往歴、最終食事、受傷時の状況)の聴取。高エネルギー外傷ならprimary survey から。歩けるか、頭打ってないかも確認。

①骨盤骨折<骨盤輪の破綻で内腸骨動脈、上殿動脈、閉鎖動脈の損傷で大出血をきたす>
→緊急性(受傷機転とXpから骨折の分類)を把握して、初期対応の後3救急の病院へ転院できるように。どっちにしても一泊入院くらいはしておいた方が無難かも
☆事故後の骨盤部の両側圧迫による不安定性の確認は現在では危ないので禁忌!
機転:交通事故など高エネルギー外傷、高齢者の転倒、高所からの墜落
視診:ほとんど動けないor足を引きずって(跛行)歩く(軽微な骨折の場合)。骨盤の変形、会陰部の皮下出血、陰嚢・陰茎の腫大。
問診:どこが痛いか明確に指摘できない。
触診:恥骨・坐骨・腸骨を触診して圧痛確認。循環・運動・感覚神経。
検査:Xp。他には採血(貧血と腎機能、造影CTのため)、造影CT、尿路造影など
骨盤正面Xp(状態が安定しているなら、骨盤入口、出口の2方向追加、寛骨臼疑いなら両斜位を追加)。大事なのは見方。AO/OTA分類。骨盤輪骨折(Bleed to die)と寛骨臼骨折(Limp to die)を見逃さないために大事。
⓪腰椎の棘突起と両脇の椎弓根が左右対称、等距離にあることを確認→読影に値するか
・骨盤前方成分
①恥骨結合離解の有無→2.5cm以上の離解は骨盤後方靭帯損傷→後方不安定性→固定。
②恥坐骨骨折の有無
③臼蓋前後縁+大腿頸部骨折の有無→寛骨臼骨折は正しい固定でないと歩行不可で死ぬ。
・骨盤後方成分
④腸骨の大きさの左右差と内骨盤輪の骨折線の有無→後方の損傷→動脈損傷で出血死
仙腸関節離解の有無:幅・高さも。4mm以上開大は異常。垂直方向の剪断骨折も確認
仙骨骨折の有無と腰椎横突起骨折の有無:左右仙骨孔の比較(神経?)、第5腰椎横突起骨折=腸腰靭帯断裂と同義、完全不安定型を示唆する。

☆特に骨靭帯の不安定を示唆する所見:第5腰椎横突起骨折、仙骨骨折、骨盤輪後方の1cm以上の転位、徒手的不安定性(?)、2.5cm以上の恥骨結合離解。

鑑別:骨盤後方要素の骨折は基本入院。
・腸骨とか恥坐骨のみの骨折(A型)→予後良好。固定は不要。ただし、抗血小板薬内服中のものは出血止まりにくいので、CT(造影)での精査は必須。
・open book型(前後方向の外力)で恥骨結合離解(2.5cm)骨盤開大→後方成分の不安定性→出血リスクが高くなる→予防に固定(シーツラッピングやpelvic binder)
・lateral compression(側方からの外力、半分以上がこれで最多の頻度)小骨盤腔の容積が小さくなるので、大出血のリスクは低いけど、仙骨孔の仙骨神経叢あたりの神経損傷(外寛骨筋・大腿屈筋・下腿及び足の全ての筋・会陰筋)の合併リスクは怖い。
・vertical shear(垂直剪断、C型)高所からの墜落とかで。後方成分の破綻による出血。こっちも固定。

合併症(説明):出血死と神経損傷
輸液と骨盤ベルト:open book型と剪断(vertical shear、これは場合による )
固定は原則、大転子に行うこと。骨盤ベルト(骨盤固定整復装具、サムスリングⅡ)か、シーツラッピング:4つ折りの細長いシーツを下にしいて、大転子部を絞めて、張力を保ったままクロス。クロスした後の奴らを鉗子で固定。足が外旋していたら、整復して正面向かせる

治療:初期対応。骨盤骨折があると判断した時点で全身管理のできる専門の救急医を呼ぶ。ルート2本確保。(バイタル崩れてたら初期輸液、乳酸加リンゲルを全開で1-2L投与)。低体温、凝固異常、アシドーシスにも注意。初期輸液に反応しない場合は緊急でTAEかガーゼパッキング。そこまでヤバそうなら骨盤固定して、輸液、採血の3点施行して3次救急の所に転送するのが良さそう。
安定型なら入院でベッド上安静。不安定性が強ければ2週間以内に内固定と解剖学的整復。間に外固定やったり出血が止まらなければTEAやガーゼパッキング。
※骨盤からの出血がそんなでもなくても別の出血部からのショックも十分ありうるので他の部分の骨折がないかは十分注意。

②股関節脱臼<受傷時の肢位。坐骨神経損傷の確認>
機転:車運転していて事故→ダッシュボードに膝をぶつけて後方脱臼。高エネ外傷なら最初にパパッと胸部xp、両股正面撮影して、骨盤の破綻が無いか確認する。
視診:足の短縮、(後方脱臼なら)股関節屈曲、内転、内旋。
疼痛・腫脹・変形も確認。
問診:受傷時
 屈曲・内転=内股→純粋な股関節後方脱臼。
 屈曲・外転→寛骨臼骨折や骨頭骨折を伴う。
 屈曲・外転・外旋=ガリ股→伸展方向に前方脱臼(?)
(触)診察:坐骨神経の神経損傷の確認→足関節の底背屈。知覚(大腿神経・坐骨神経)と末梢循環(大腿動脈損傷)、毛細血管再充満時間も。
検査:両股関節xp+患肢ラウエン(疼痛で動かせない時は無理に撮らない。脱臼で内転位にある股関節脱臼では外転させるラウエンは非常に痛い。)
鑑別:股関節骨折<xpで診断>
合併症(説明):大腿骨頭壊死→脱臼後に起こる合併症で、整復の有無に関わらず起こりうる。必ず、整復操作によって起こるわけでないことを説明する。坐骨神経損傷の可能性も説明する。
治療:緊急の整復が必要(時間経過で大腿骨頭壊死・坐骨神経麻痺)
十分な麻酔(腰椎穿刺や静脈麻酔など)施行後行う。呼吸抑制起きたら全麻に移行できるようにあらかじめ準備しておく。
Allis法:一般的。二人。骨盤を押さえて、下腿を抱えて、軸方向に引っ張りながら徐々に屈曲させていく。で、内旋を加えて整復。愛護的に。
あと、整復はその場か、透視下か、手術室で行う。個々の症例によりけり。
☆整復後の確認のxpも忘れず撮影。CTも撮影すると関節内外の骨片の有無や大きさ、骨頭骨折の合併損傷を評価できる。
→CTで関節内骨折がなかったら、整復後に牽引不要。関節内骨折があったら、介達牽引をして関節の安静化を図る。
どちらにしても入院が必要な症例。

徒手整復ができなかった場合には、速やかに観血的整復術を行う必要がある。
→少ない経験で無理をすると医原性の骨折起こしてグダグダになるので、無理せず上級医に相談する。

③大腿骨近位部骨折(頸部骨折、転子部骨折)
機転:転倒→歩けなくなって救急車。転倒→数日経って歩けなくなって救急車(受傷を覚えてない)。若年者の高エネルギー外傷(他部位の骨折も)
視診:歩容。だいたい、ストレッチャーで臥床。外旋位。腫脹大→関節外<転子部?>、

問診:受傷機転。転倒した原因を確認。内因性疾患が隠れていないか(心筋梗塞や意識消失発作、BZ系の薬剤など)も調べる。
→自発的な運動は可能か。

診察(触診):脈拍<両側の内果動脈、足背動脈>、末梢神経障害<知覚、痛覚、指の動き>、圧痛点(スカルパ三角)、叩打痛(大転子)、股関節の外旋(他動的に軽度、愛護的に)

検査:Xp<両股関節正面と側面像、ラウエンは疼痛強くなって患者負担大きいから基本撮影しない>
→Xpで異常見つからない(5%くらい?)、でも歩けない→MRIやCTで評価。
※XPではまず、小転子が左右均等に見えることを確認(読影に値するxp)。骨折してると、大腿骨頭と頸部の鋭角のくびれと、骨髄質の重なりによる帯状の濃度上昇(白)を認める。
→骨折なら入院→近日中に手術→入院時検査(一般的な検査の他m輸血用採血、感染症スクリーニングも)、抗凝固薬の内服あたりも確認して輸血同意書もとる。発見が遅れて脱水・感染おこしてる場合はそっちの対応も並行して行う。
骨盤部骨折→大量出血のケースもあるので、両股正面では骨盤、恥骨あたりも評価。

鑑別:骨盤骨折(xpで恥骨、坐骨確認)、大腿骨転子部剥離骨折(歩行可能、xpで中殿筋に付着した転子部が上方に牽引されている)、化膿性股関節炎(全身状態不良、採血、歩行不能、診断できたらすぐに対応、関節洗浄術とか)、大腿骨頭壊死(アルコール、ステロイド)

説明:頸部骨折そのものに、大腿骨頭壊死のリスクが付きまとうこと(壊死した場合には医原性、いじったから壊死したわけじゃないよってことを伝えなければならない。)あとは、安静にしてると肺炎とか廃用の合併症が起きるから、早期手術で活動性を戻すのが大事。 
血栓塞栓のリスクも説明する。
その他合併症:LSC(Late segmental collapse)遅発性の骨頭圧潰、特に転位型の骨折では、骨頭壊死と同様リスクが高い。 

治療:
大腿骨頸部骨折
Garden分類のstageⅠ、Ⅱの非転位型はスクリューによる骨接合術(キャニュレテッドスクリュー、スライディングヒップスクリューなど)。
StageⅢ、Ⅳは骨接合か人工骨頭置換術か、年齢・活動性・全身状態によって決める。ただ、一般的に高齢者(70歳以上)には人工骨頭置換術が多い。若年者はⅢ、Ⅳでも骨接合術を試みる(整復できるかトライ)
手術までは痛みのない範囲で状態を起こしてもかまわない。鎮痛はしっかり。
→ベッド上安静、Gapは30°まで可。絶飲食、補液、排泄はベッド上、必要ならバルーン挿入
Garden分類
StageⅠ:
StageⅡ:
StageⅢ:
StageⅣ:


転子部骨折
骨接合術(血豊富のため骨癒合良好)だけど、整復が結構難しいので大変。分類はEvans分類(小転子→大転子の骨折はtype1、小転子→遠位外側をtype2として、type1を転位と整復で4つにGroup分けする。)使うのはCHS(compression hip screw)が多い?他にはshort femoral nail(ガンマネイル)も推奨されてる。
転位のない大転子部のみの骨折では保存的治療が推奨。
※ちなみに関節包内外にまたがる頸基部骨折は頸部と転子部骨折の中間で、安定性低い。この時もCHS(compression  hip screw)でガッチリ固定。


※牽引(鋼線牽引、介達牽引)は骨折部の除痛のみを目的としたものであり、整復を目的としているわけではない。→疼痛が自制内ならば、牽引はしない傾向にある。

CHSによる手術手技(ザックリ)はカラー写真でみるやつのp115

④大腿骨骨幹部骨折:硬い皮質骨。折れるのは高エネルギー。骨幹部への腫瘍転移もある
周囲の筋肉の力は強くて、徒手整復は基本ムリ(小児は可)なので手術適応。
機転:交通事故や転落などの高エネルギー外傷。まれに虐待。
視診:歩行不能。患肢短縮、大腿部腫脹、強度疼痛。開放創(軟部組織損傷)の有無の確認も。わかりにくい場合は膝蓋骨の位置(外旋による転位)も確認する。頸部骨折も合併しがちなので、そっちも診察も同様に行う。
問診:非定型大腿骨骨幹部骨折の鑑別にビスフォスフォネートの内服歴。
触診:基本の神経、循環(足背動脈、後脛骨動脈、膝窩動脈)の確認。
検査:大腿骨のXp、正側面の2方向、健側も?その他高エネルギー外傷なら、骨盤部と両膝の2方向xpも。
☆Winquist-Hansen分類:第3骨片で分類。Ⅰ:小さな第3骨片、Ⅱ:皮質骨の50%未満の第3骨片、Ⅲ:回旋、短縮起こしそうな第3骨片、Ⅳ:バラバラ
☆AO分類:A(単純骨折)、B(楔状骨折)、C(複合骨折)と1(らせん)、2(斜、屈曲、分節)、(横or粉砕)で分類。
鑑別:大腿骨の上下の関節の骨折も確認。骨幹部骨折の5%弱に頸部骨折も合併らしい。見逃されがち。
合併症(説明):大量出血(骨幹部単体の骨折でも500~1000mlとか)、神経損傷、コンパートメント症候群、骨折→脂肪滴→脂肪塞栓症、呼吸窮迫症候群<脳、肺。受傷後2,3日に意識障害や酸素化低下、発熱、点状出血も→Xpで吹雪様陰影?>。
大腿骨頸部骨折も。この辺はまとめて一緒に診察する。
治療:手術、閉鎖性髄内釘横止め法がgold standard。大転子頂部から刺入。
ポイント;髄内釘より髄腔を1~1.5mm程over-reaminngする。髄内釘は10-12mmが多い。
術後は50%以上の皮質骨の接触があれば、術直後より全荷重が可能。ここは損傷の程度によりそう。
☆頸部骨折も合併していた場合は髄内釘の近位前方にscew()を刺入し頸部を固定する。もしくは、骨幹部は逆行性(大腿骨遠位から刺入)の髄内釘、頸部はsliding hip screwで固定の方法。
開放創なら創外固定からの二期的な治療へ。
術前、待機する時の直達牽引(キルシュナー鋼線)は大腿骨遠位か脛骨近位か?
(小児で転位がない場合のみ保存的治療→3歳以下でBryant牽引、3~10歳でRussell牽引、どっちも関節的に牽引)

※大腿部遠位端骨折:大腿骨の遠位側。骨幹部だけど、末梢骨片が後方に転位して神経・血管損傷を起こしうる。歩行不能で大腿骨遠位に疼痛・腫脹・発赤があったら疑う。治療は転位が少なければギプス?入院して牽引して手術。プレート使うことが多い?逆行性ネイルもあり?
※大腿部顆上骨折(Hoffa骨折=冠状断骨折):関節内骨折。見逃しやすい。正側2方向+斜位2方向、大腿骨2方向。関節面の評価にCT、半月板、靭帯損傷の評価にMRI